自分を辞める
本を読むようにこの章を読めます。ページをめくることができ、読んだ場所も保存されます。この章を本の中で開く

第4章

開かないノート

あらゆることを数えるのに、自分のことだけ数えないのはなぜか。

読了の目安:約5分

リナが立ち上がろうとしたとき、父が言いました。「もう少し座っていなさい。最後にここで丸一時間一緒に過ごしたのは、いつだい?」。テーブルには薬の箱。バッグを持っていないほうの手には、スマートフォンがありました。「先週よ、お父さん」と答えました。それから先週を思い出しました。八分、薬、スマートフォン。バッグを肩にかけ直し、テーブルの端からこしょうの容器をずらしました。ラベルには、父の端正な、傾いた筆跡で言葉が書いてありました。ほかの香辛料の容器にも、同じ字がありました。

父は六十歳くらいで、十分の距離に住んでいます。リナは二、三日おきに寄ります。薬を置き、冷蔵庫を開け、血圧を尋ね、それから手も乾かないうちにメッセージに返事をします。父が来客に「立派な会社の会計担当者」と言ったことがありました。リナは台所でそれを聞き、棚で傾いていた容器を直しました。

車の中で腕時計が振動しました。九千四百十二歩。睡眠は百点中七十一点。車の画面には、今月の燃料費が八パーセント増えたと出ていました。メモ欄を開き、「お父さん」と書いて、止まりました。その横にどんな数字を置けばいいのか、わかりませんでした。

測らないものは、少しずつ滑り落ちる

あなたはどうですか。今月、一番身近な人たちと、静かな時間を何時間過ごしましたか。

私たちは、記録しやすいことは追いかけます。振り返る時間を用意しなかったことは、見落とします。歩数はスマートフォンが数えてくれます。大切な人と過ごす一時間は、あなた以外に数える人はいません。

一週間を言葉で説明する代わりに、その記録を開いてください。毎晩勉強すると言いました。実際に本を開いた夜は、何晩ありましたか。買い物を減らしたと言いました。リストにないものに、いくら使いましたか。兄弟を手伝うと約束しました。相手が眠るまでに、何回「あとで」と言いましたか。「努力している」とは書かないでください。起きたことを書いてください。勉強の予定は七回。実際に取り組んだのは二回。手伝うという約束は三回。守ったのは一回。この数字には、「忙しい」という言葉にはない重みがあります。その重みこそ、ノートを開くのを先延ばしにする理由かもしれません。

結果がぼんやりしている間は、矛盾する二つの自分像を抱えていられます。真剣な目標を立てる人と、そのための時間がまったく見つからない人。ページは、その二つを一緒に見せます。時間はほかのことに使われ、事情と呼んでいるものの一部は、同じ曜日の同じ時刻に繰り返されていたとわかります。人に見せる必要はありません。あなた自身が、飾らずに読んでください。約束がどこで崩れたのかわからなければ、来週の約束は何が違うのでしょう。今日避けている数字が、明日できる最初の変化を教えてくれるかもしれません。

「ときどき運動する」と言う人を考えてみましょう。嘘ではありません。けれど数字では何もわかりません。ときどきは、週に二回かもしれませんし、月に二回かもしれません。

測らないものは、突然消えるわけではありません。転換点に気づかないまま、一日一日、ゆっくり滑り落ちます。昨日と今日の差は、気づけないほど小さい。ようやく振り返ったときには、距離が大きくなっています。

本当の燃料

研究者のテレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーは、7社、26チームの238人が書いた約12,000件の日誌を調べました。探した答えは一つ。ある日が別の日よりよい日になるのは、なぜなのか。

二人は著書『マネジャーの最も大切な仕事』(2011)で、最も強い要因は、自分にとって大切なことが、小さくてもはっきり前に進んでいると感じることだと示しました1。よい日になるために、いつも大きな成果が必要だったわけではありません。意味のある仕事での小さな進歩も、気分のよさと関連していました。

腕時計のメーカーは、あなたの歩数を示す画面をつくりました。けれど母や父との関係や、何年も先延ばしにしてきた約束が、どれだけ前に進んだかを示す画面は、誰がつくってくれたでしょう。

誰もつくっていません。

ノートは効果を高める

研究者のベンジャミン・ハーキンらによる大規模な研究レビューは、目標の進み具合を確認することについて、約20,000人が参加した138件の研究を集めました2。

結論は単純です。目標に向かう自分の進み具合を確認する人は、確認しない人より、平均すると目標の達成度が高くなります。効果の大きさは、分野と確認の方法によって変わります。確認だけで目標の達成が保証されるわけではありません。それでも、達成しやすいほうへ天秤を傾けます。

進み具合を頭の中にとどめるより、書いたほうが効果は大きくなりました。他の人がそれを知っている場合も、効果が大きくなりました。これは研究群どうしの差であって、あなたの数字が倍になるという約束ではありません。けれどどれも同じ方向を示しています。書き、誰かに知らせることです。

書かれた数字はあなたに現実を突きつけ、取り繕うことを許しません。他の人も知っている数字には、ノートだけでは用意できないものが加わります。尋ねる人がいることです。

一週間の記録

生活を冷たい表に変えるわけではありません。数字は二つか三つだけ。何もかも、毎日細かく記録する必要はありません。目的はパターンを見ること。方程式の中で生きることではありません。ここでのノートは小さな手伝い役であって、主人ではありません。

誰も代わりに数えてくれないもののために、小さなノートを始めてください。

週の終わりに、リナは書きました。お父さんを三回訪ねた。夫にページを見せると、「それで、どのくらい座っていたの?」と聞かれました。思い出そうと通話履歴を開き、次にその日の写真、その次にメッセージを見ました。どれも役に立ちません。訪ねた三回は数えられますが、薬を整えたあとに残っていた時間は、書いていませんでした。訪問の下に「先週より長く」と書きました。夫はその行を見て、それからリナを見ました。「長く」を消し、そこを空欄にしました。次の夜は、仕事のメッセージを開く前に、帰ってすぐ訪問時間を分で書きました。広いページに、数字は小さく見えました。家計の表が窮屈なときのように、字を細かくして、さらに小さくすることはしませんでした。

使うタイミング:アプリの数字はわかるのに、大切な約束に何を注いだかはわからないとき。所要時間:毎晩一分。週の終わりにページを振り返るために五分。

  1. 本当に大切な数字を、二つか三つ選ぶ:大切な人と過ごす静かな時間、母に電話した回数、あるいは寝る一時間前にスマートフォンを閉じた夜の数です。
  2. 簡単な一ページにまとめる:日付と数字。複雑にせず、新しいアプリも使いません。
  3. 毎晩、数字を一行で書く:週の終わりまで待って、記憶から推測しないでください。記憶は美化したり、間違えたりすることがあります。
  4. 毎週の終わりに、一人にページを見せる:人に知らせて行う確認は、秘密の確認より効果が強いことが多いのです。

転んだら:たとえ零でも、実際の数字をそのまま書きます。それから来週のために、一つの予定を用意します。

記録を二週間続けて、リナは夫にページを見せました。二週間で、父と三時間。その大半は二週目でした。「十分かな?」と聞きました。「君が決めることだよ」と夫は言いました。数字に線を引き、書きました。土曜、スマートフォンなしで一時間。

三週目、リナはスマートフォンを車に置いて、父の家に入りました。十分後、冷蔵庫を確かめようと立ち上がりました。「薬はちゃんと置いてあるよ」と父は言いました。リナは座り、最初のときと同じように、テーブルの端からこしょうの容器をずらしました。それから、スマートフォンのないポケットへ手を伸ばしました。父が笑いました。「何かなくしたかい?」。「この一時間は、お父さんのためよ」と答えました。

最初にした仕事について尋ねました。父は受け皿の上でティーカップを動かし、言いました。「ある男のところでね。あの人ほど手がぶれない人は、生まれてこのかた見たことがない……」。リナは顔を上げましたが、父は時計を見ました。「それで?」と聞きました。「長い話だ。今度の土曜にしよう」。少し待ってから、リナは椅子に背を預け直しました。

一時間後に立つと、父は言いました。「今日は座っていてくれたね」。車の中で、六十分と書きました。何かを直したとは書きませんでした。夜、夫に言いました。「ただ座っている時間そのものを、数えないと」。それからスマートフォンのカレンダーを開き、父の話の続きを聞くため、次の土曜に一時間の予定を入れました。

知らない数字

問いは二つだけです。一つ目は今夜。今、確認していない、あなたの人生の大切な部分は何ですか。寝る前に、その最初の数字を書いてください。

二つ目は、記録して一週間後。何がわかりましたか。どんな調整を試しますか。

参考文献 (2)
  1. 1Amabile, T., & Kramer, S. (2011). The Progress Principle: Using Small Wins to Ignite Joy, Engagement, and Creativity at Work. Harvard Business Review Press.
  2. 2Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229.